【地域に根ざした特養になるためには】 副施設長 川邊弘美

経営協3月号より>>>>

(社)全国社会福祉協議会・全国社会福祉施設経営者協議会が
発行している「経営協」3月号に川邊弘美副施設長の連載記事が
掲載されましたので、ご紹介いたします。

 はじめに

 芦別慈恵園は平成19年9月1日に、全国で8番目のサテライト型居住施設
「かざぐるま」を開設し、本体特養から16名が住み替えをしました。
現在半年が経ち、地域の中で暮らす・一緒に生活することを目標に、利用者と
ともに職員も悩みながら、一つずつ問題を解決しています。
 地域に根ざした特養のあり方とは何なのか、今までの取り組みの中から
考えてみたいと思います。

 施設概要

 芦別慈恵園は、昭和45年2月1日に50床からなる道内6番目の特養として
開設されました。平成13年に道路の移転に伴い全面改築となりましたが
従来型の最後の施設となりました。

 当園の基本理念は「和顔愛語」で、意味は「人に優しい笑顔で、心は豊かに
言葉は和やかに」です。これは、職員が仕事をするうえでの指針となり
理念を実現することが努力目標となっています。
また、業務指針を作成し、働くうえでの必要なルールを文章化し、方向性を
示しています。 

 その人をよく知るためにユニットケアを始める 

 平成14年からユニットケアの介護方法を導入しました。介護保険が始まり
2年経っていましたが、まだ利用者を個人と考えるのではなく、集団とみて介護を
していたのが現実であり、事故や落ち着かない生活に対して、良い解決策も
見出せないままに1日1日が過ぎていました。

 このままではよくならないと思い、介護する側の考えや都合ではなく、相手を
良く知ること、相手に近づくことから始めました。

 まず最初にユニットを区切り、職員を固定しました。最初は、設えばかりに目が
いき、物を置くなど環境を変えることで満足し、利用者の生活に「必要なこと」や
「安心できる雰囲気」が本当にこれでよいのか、一つ一つ「行ったこと」に意味が
あるのか確認していなかったと思います。

 スタッフについて 

 小さい単位で介護を行うために従来の人員では足りなくなり、人員確保のため
短時間のパート職員を配置しました。
 現在、その頃のスタッフは数人しかいませんが、残っているスタッフは資格を取得
する・時間を変更するなど積極的な仕事で頼れる人材となっています。
 また、ユニットは利用者の状況により目標や達成する課題に違いがあります。
当然のことですが、リーダーによってスタッフのやる気にも差が出てきて、それが
介護の質にもつながっています。リーダーのモチベーションの維持や法人の方向性の
共通理解のために、ユニット会議後に幹部職員はリーダーに対して、悩みや仕事の
進捗状況、スタッフの状況などを聞き、情報の共有と助言、方向性を確認しています。
 1年間行ってきましたが、少しずつ話せる人間関係ができていると感じます。
そして、家族や利用者に職員を知ってもらうために「組織図」を作り、顔写真と職種や
取得資格名を載せ掲示しています。家族からは、誰か分かるので安心、との声を
頂いています。 

 もみじの家」で学んだことについて  

 平成17年8月1日に民家を改修した単独型デイサービスを開設しました。
ここは、築40年以上の古い建物で、家そのものが地域の中に存在感を与え
町内会や近所づきあいがありました。

 すぐに、昔遊びに来ていた方や、畑や庭を楽しみに来る方、野菜づくりを
教えてくださる方などお付き合いがスムーズにでき、改めて環境の持つ力の
すごさを感じました。また、本体特養であんなに悩んだ設えも「ふつうの家」なので
利用者がホッとする空間が自然にできてなじんでいきました。
 どんなに工夫しても本体特養には限界があり、家に近くなっても本物の家ではない
ことを改めて考えさせられました。
 
 現在は開設して2年が経ちニーズも広がり、時間延長や宿泊、配食などのサービスも
行っています。
配食は平成18年度から、本体のデイサービスと「もみじの家」のスタッフで行っています。
本体特養の厨房で専任のパート職員1名が20食を調理しています。料金は680円です。
 半年かけて、利用者の家を何回も訪問していくうちに地域に少しずつ浸透していき
独居の方、高齢で食事が作れなくなったご夫婦、退院後から回復期までの療養食など
ニーズも多様化していきました。また、お弁当を配達することで、家での生活、家族の様子
利用者の気持ちなどがわかってきて信頼され継続して取っていただくまでに1年以上
かかりました。
 現在は夕食だけなので昼食も頼みたいとの要望もありますが、配達や調理する場所の
問題もあり、今後の課題となっています。

 サテライト型居住施設「かざぐるま

 平成19年9月1日に開設した「かざぐるま」は、本体特養から車で5分、市内で一番
大きな町内会の中に建てました。この町内には古くから本体特養のボランティアに
来ている方もおり、なじみの地域になっていました。

 計画段階から地域と暮らすことを念頭におき、町内会の総会や老人クラブに参加し
時間をかけて関係づくりに努めてきました。また、地域の方を対象に職員がそば打ちの
講習会を行い、利用者と一緒に食事をしたり老人クラブ役員の方に来園していただき
「かざぐるま」の運営について何を一緒にできるのかを話し合ったりしました。
慈恵園の運営や利用する方のことについて何度も説明し、特別な人ではなく
ふつうの暮らしをしている人が引っ越してくることを理解していただきました。
 完成時の見学会には、町内の方が90名ほど来られ関心が高いことを感じました。
地域のニーズや経営のことも考え、短期入所を4床増やしましたが、ここなら使いたい
との希望も多く、よい評価を頂いています。

 利用者の「住み替え」については部屋で必要なものは、本人や家族にお願いしました。
初めは「なぜ必要なのか」、「新しく買わなければ」と戸惑っていましたが、今では自分の
ものを気兼ねなく安心して使い、使い勝手もよくなじんでいるようです。
家族の面会も倍に増え、滞在時間も長くなっています。それは「個室」という空間のもつ
力だと思います。また、職員との距離が近いこともあり、利用者もはっきり意見をいい
家族も何事にも積極的に参加し、アンケートなどの回収率もほぼ100%ということからも
わかるとおり、一緒にやろうとする意気込みと期待があります。スタッフもそれを受け止め
頑張らなければとの気持ちと責任を感じています。

 また、開設前から募集したボランティアはすぐに集まり、毎日違う方が朝から夕方まで
来てくださり、思い思いに利用者との時間を過ごし、少しずつですが特色もでてきています。
ボランティアと利用者が顔見知りからお互いに親しみを持って理解できるようになるまでには
まだまだ時間がかかりそうです。
ここでの利用者の生活が、自然に地域の中に溶け込んでいくためには、利用者・家族・近
所の方に「いろいろな場面」で自然に「気遣い」のできるスタッフになることが必要不可欠
なことです。それは「生活することが難しい」というスタッフが、人をもてなすことや町内会
行事に参加すること、つまり地域に出ることであり、地域の方に「かざぐるま」に入ってもらう
ことがふつうにできるようになることだと考えています。
 そうすることで利用者の日常生活が「なにげなく散歩し」、「近くに買い物に行く」。そんな
楽しみのある暮らしになっていけると思っています。

 本体改修が始まる

 「かざぐるま」へ「住み替え」後の改修工事が本体で始まりました。
今までの経験から、@ユニットに玄関を作る Aお風呂は個浴にすること Bトイレは
各部屋に C感染症予防としてトイレに手洗い場を D外が見えるデイルーム
E靴を脱いで過ごせるユニット F広いキッチン、など多くの要望がありました。
 2月下旬に完成し、基本的な介護力の向上はもちろんのこと「ふつうの暮らしをする」を
合言葉に一緒に生活をするための準備を模索しながら行っています。

 まとめ 

 道内の老舗の施設として、自負心をもって現在までいろいろな事業に取り組んで
きました。現在も在宅生活を支えるサービスを探りながらできることからコツコツと
始め、少しずつ状況を確認しながら進んでいます。

 大切なことは、どんな時も足元を見つめ地道にマンネリ化にならないように
新しい風を吹き込みながら前進していくことだと思います。
スタッフの育成も事業も積み重ねが大切であり、働くうえでの指針や理念を法人全体の
ルールとして、必ず守っていくという信念をもつことだと思っています。

 新規事業も始まったばかりですが、これから「人材・介護力・環境」を整備しながら
安定した力をもつことが、地域のニーズに応え活用される特養の役割であり、それが
法人の継続につながっていくことであると考えています。